2004年6月

2004年6月
今月の【料理教室】から、この一品
Melanzane ripiene(メランツァーネ・リピエーネ)
ナスの詰め物

イタリアをブーツの形に例えれば、ちょうど「かかと」にあたる、プーリア州。
私が滞在していたペスキチという小さな村は、
「かかと」よりちょっと上、アドリア海に突き出た岬に位置している。
多くの観光客でにぎわうプーリアの中にありながら、
完全に取り残されているような、のどかでのんびりした村だ。

村のおばさんたちは、ムームーみたいなアッパッパー(古い!)に、
つっかけサンダルという無防備ないでたちで、そこらじゅうで井戸端会議。
私が料理を習いに来ていることを知ると、
「まあ!今ちょうど昼ごはん食べてるのよ。
見て行きなさいよ」と、
あっちからも、こっちからも、
まるでポン引きみたいに声がかかる。

この料理は、私がこの村で出会ったそんなおばさん達の中でも、
一番巨大でムチムチした肉体の持ち主、キャラメリーナから教わった料理。
余談だけど、キャラメッラ(=キャラメル)に、
日本でいえば「××ちゃん」といった愛称にあたる「イーナ」をつけた、
ずばり「キャラメルちゃん」という名のおばちゃんだ。

プーリア名産の巨大ナスをくりぬいた中に、くりぬいた分のナスはもちろん、
チーズ、卵、古くなって固くなったパンを混ぜ合わせ、
これをナスの中にぎゅうぎゅうにつめて、トマトソースでぐつぐつ煮込む。
肉はいっさい使わない。貧しかった時代の貧乏料理なのだろう。

火が通ると、中身がぷっくりと盛り上がり、見た目は、ピーマンの肉詰めといったところか。
ところが、一口食べてみて、想像とはかけはなれた不思議な食感にびっくり。
つなぎの卵がほどよく固まって、茶碗蒸しのようでも、ぐじゅぐじゅのはんぺんのようでもある。
ひとくちごとにクセになる味わいだ。

料理が完成すると、キャラメリーナおばちゃんは一息つくようにベランダへ出て、
タバコをくわえる。
そして私が口にするのを見届けると「どう?ブオーナ(おいしい)でしょう」
と自信満々に言いながら、鼻からプーっと長~い煙を吐くのだ。
こんないガタイがいいのに、不覚にもソフィア・ローレンを彷彿としてしまうのは何故だ。
キャラメリーナちゃんの「ナスの詰め物」には、
貧しい時代の料理の中にも、どこか堂々とした風格が漂っている。
なんか、かっこいいなあ。
南イタリアの女。南イタリアの料理。